Voiceoverの「読み上げかた」とは
Voiceoverは、高度なアルゴリズムによりテキスト全体を解析し、自然な読み上げを実現しています。同じ単語でも、前後の分脈をもとに読み方を変化させたり、イントネーションを上下させるなど、特別なチューニングを施すことなく、違和感なくテキストを読み上げてくれます。
とはいえ、細かい部分ではまだまだ不完全なのも事実。AI技術などを取り込むことで今後進化が期待できる分野ではあるのですが、万人にとって完璧な読み上げを実現するには、まだ時間がかかるのではないでしょうか。
Voiceoverの「読み上げかた」は、ユーザーがテキスト読み上げの内容をカスタマイズできる機能です。これを用いることで、こまごまとした読み上げに関するストレスを解消させることができるでしょう。
この機能の仕組みはとてもシンプル。指定した文字列に対する「読み方」を登録しておくことで、Voiceoverはそのルールにしたがってテキストを読み上げてくれます。
日本語入力に「ユーザー辞書」という機能がありますが、その逆バージョンといえばイメージしやすいでしょうか。むしろわかりにくいたとえのような気もしますが。
「読み上げかた」の活用例
ではVoiceoverの「読み上げかた」の、具体的な活用例を挙げて見ましょう。
(1)固有名詞を正確に読ませる
もっとも基本的な活用法ですね。
人命・地名などの固有名詞は、なかなか正確には読み上げてくれません。読み方を登録すれば、常に正確に読み上げてくれます。
(2)単位や顔文字をわかりやすく読ませる
「km」といった単位や、「(^_^)」などの顔文字に代表されるような、複数の文字を組み合わせる表現は、基本的に文字の通りにしか読み上げません。
「キロメートル」「スマイル顔文字」のように登録すれば、文章の内容もわかりやすくなります。
(3)反核英数による「読み崩れ」を軽減させる
Voiceoverでは、全角と反核の単語が混在したテキストを読み上げると、読み上げが崩れやすくなります。反核英数の単語を、日本語読みで登録しておくことで、読み崩れが大幅に軽減されます。
たとえば「Google」「Apple」「AI」を「ぐーぐる」「あっぷる」「えーあい」と登録すれば、IT系ニュースでの読み崩れが少なくなります。
(4)頻出する長いフレーズを省略する
数十文字にも及ぶ固有名詞。数回ならまだしも、頻繁に読み上げるとかなりゲンナリしてしまいます。このような長い単語やフレーズを、意味のわかる範囲で省略して「読み上げかた」に登録しておけば、時間の節約にもなりますね。
(5)Voiceoverの不具合や機能不足を応急的に解消する
Voiceoverには、まだ細々とした読み上げの不具合があります。いくつかの不具合は、読み上げかたで解消することが可能です。
その代表的なものが、「カタカナや漢数字を1文字読みしない」現象。詳しくは以下の記事を参照してください。
他にも「帰宅する」の「帰」など1文字読みをしない文字があり、これも「読み上げかた」で応急的に対処できます。
さらに、半角の「Contacts]を「れんらくさき」、「Calculator」を「け
いさんき」と読む怪現象もこの方法で解消可能です。
もう一つ、MacのVoiceoverでは、英数の全角と半角を読み分けることができません(大文字、小文字は読みわけます)。たとえば全角「A」を「全角えー」と登録しておくと、全角・半角の判別が可能になります。ただ副作用として、登録した全角文字が文章の中に単独で出現すると、読み上げかたの読みが適用されてしまいます。
読み上げかたの登録手順
では実際に読み上げかたに、読み方のルールを登録してみましょう。基本は「Voiceoverユーティリティ」を使用します。
(1)「読み上げかた」設定を開く
Voiceoverがオンの状態で、「VO + F8」を押し、Voiceoverユーティリティを開きます。
「ユーティリティのカテゴリ」から「スピーチ」を選択。
「読み上げかた」のタブを選択し、
VOカーソルを動かして「読み上げかた ひょう」と読み上げられたら「VO + Shift + 下矢印」を押して操作可能にします。
表内の項目は、「VO + 矢印キー」で移動。Tabキーも使用できます。
「Option + 下矢印」で末尾行に移動、「Option + 上矢印」で先頭行に移動できます。また英数文字限定ですが、、キー入力で頭出しも可能です。
(2) 新しい読み上げかたを追加する
新しい行を追加するには「Command + N」をオスカ、表の下にある「追加」ボタンをクリックします。
行を追加すると、まず「テキスト」項目が編集モードに切り替わります。もし編集モードにならない場合は「VO + スペース」を押します。
ここに、読み方を変更したい文字列を入力します。
この文字列が基本となるので間違えないようにコピー&ペーストが確実でしょう。
入力したら、Tabキーか「VO + 右矢印」を押して「読み方」項目に移動します。
ここに「テキスト」で指定した文字列の読み方を入力します。
漢字や固有名詞の場合は、ひらがなで入力すると確実です。
以上の2項目を入力した段階で、指定したテキストの読み方が変更されます。
(なお「読み上げかた」の画面を閉じると、「テキスト」項目の昇順にデータが並べ替えられます)
さらに「アプリケーション」項目のプルダウンメニューからアプリケーションを指定すると、読み上げかたを変更するアプリケーションを指定できます。デフォルトでは「全てのアプリケーション」が指定されています。
また「大文字/小文字を無視」のチェックを外すと、テキストの大文字/小文字を区別して読み方が変更されます。デフォルトではチェックが入っています。
同じテキストでも、アプリケーションによって読み方を変えたい場合や、小文字と大文字の表記で読み方を変えるといった使い方ができます。
なお、「読み方」以外の項目が同一の行が複数ある場合は、「読み方」の若いものが適用されます。
(3)読み上げかたの修正・削除
登録済みの読み上げかたを修正するには、項目にVOカーソルを合わせて「VO + スペース」を押します。編集モードに切り替わるので、内容を編集して「Return」キーで確定します。
行を削除するには、削除したい行にカーソルを合わせ、「Delete」キーをオスカ、表の下にある「削除」ボタンをクリックします。項目にデータが入っている場合は、削除する時に確認のダイアログが表示されます。「削除」をクリックするとその行が削除されます。
なお、この処理は取り消しできません。
読み上げかたデータのインポートとエクスポート
読み上げかたに登録した読み方データは、Voiceover環境設定とは別に、単独でのインポート/エクスポートが可能です。バックアップ用途としてはもちろん、他ユーザーとデータを共有して利用することもできます。
ただし、読み上げかたをインポートすると、それまで登録されていたデータは全て消えてしまうので注意が必要です。
(1)読み上げかたのエクスポート
Voiceoverユーティリティの「ファイル」メニューから
「環境設定を書き出す」を開き、「書き出し」ポップアップメニューから「読み上げかた」を選択してエクスポートします。
指定した保存先に「VoiceOverの読み上げかた.voprefs」というファイルが作成されます。
(2)読み上げかたのインポート
Voiceoverユーティリティの「ファイル」メニューから
「環境設定を読み込む」を開き、「VoiceOverの読み上げかた.voprefs」を指定します。
確認するダイアログが表示されるので「OK」をクリックすればインポートされます。
インポートすると、読み上げかたのデータは置き換わるので注意しましょう。
(3)読み上げかたのリセット
Voiceoverユーティリティの「ファイル」メニューから
「カスタムVoiceOver環境設定をリセット」>「読み上げかた」で、読み上げかたを初期化できます。
アクティビティやコマンダーと組み合わせる
Voiceoverのアクティビティを追加して、新しい「読み上げかた」設定セットを作成すれば、任意のタイミングもしくは特定のアプリケーションやWebサイトごとに別個の読み上げかたを利用することができます。
アクティビティについては、以下の記事を参照してください。
また、キーボードコマンダー、テンキーコマンダー、トラックパッドコマンダーに「読み上げかたを追加」コマンドを登録しておけば、Voiceoverユーティリティを起動することなく、ポップアップウィンドウから簡単に読み上げかたを追加することができます。
頻繁に読み上げかたを登録しているのであれば、コマンダーからの登録がオススメです。
まとめ
Voiceoverの「読み上げかた」に関してざっくりとですがご紹介しました。
VoiceoverはNVDAなどと違い、読み上げに使用する音声エンジンを自由にカスタマイズできないため、不具合など読み上げに関する問題が発生しても、結局Appleの対応を待たなければいけません。
そのような状況の中で「読み上げかた」は、ユーザーがVoiceoverの読み上げを改善させる数少ない方法の一つです。
今回は表面的な機能の解説にとどまりましたが、もしかしたらもっと画期的な利用方法があるかもしれません。見つかり次第、こちらで報告させていただきます。
将来的にはmacOSとiOSでの読み方データの同期や、IMEの外部辞書のようにネットなどで流通させた読み方データをアタッチできるようになれば、Macユーザーでデータを共同編集するなどさまざまな展開が考えられます。読み上げエンジンの改良はもちろんですが、「読み上げかた」きのうをもっとフレキシブルに使えるようになれば、さらにVoiceoverユーザーの利便性は工場するでしょう。
※この記事はmacOS 10.13.5で執筆しました。
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